こんにちは、ナギです🐢
作業療法士として18年、いまは訪問のリハビリと、自費リハビリの副業をしながら、医療職の働き方について書いています。
「『質問しろ』と言われたのに、質問すると怒られる、、、」
「指示が矛盾していて、何を信じていいかわからない」
「これって、私の理解力の問題?」
📌 この記事は、こんな方へ
・新人時代に矛盾した指示で消耗した方
・『ダブルバインド』に名前をつけて整理したい方
・理不尽な指導から、自分を抜け出させたい方
📺 この記事の内容を動画でも解説しています
📋 この記事でわかること
- ダブルバインド(二重拘束)の定義と職場での典型パターン
- 医療現場に多い5つの矛盾指示と、なぜ「自分の能力不足」だと勘違いするのか
- 長期暴露で認知が歪む理由と、心身に出やすいサイン
- パワハラとして記録に残す3つの手順
- 「辞めるべきか」を迷う人のための具体的な判断基準
📖 私の実体験|OT1年目から18年間気づかなかったダブルバインド
最初は「洗脳状態」だったのかもしれません。学ぶということはこういうことだ、と信じていました。18年目の今、あれがダブルバインドだったとわかります。
▍入社前から始まっていた搾取
内定をもらい、入社する前のことでした。「リハビリで使うサンディングという木製の道具を作ってきてくれないか」と依頼されたんです。材料費が出るわけでもない。「やる気があると思われるしいいよ」と言われ、断れませんでした。
木工が得意ではない私は、元建築関係だった父親に頼んで作ってもらいました。父親まで使われている感覚が、ただ虚しかったです。入社まで1ヶ月以上あったにもかかわらず、2週間ほどで「まだできていないの?」と催促の電話がかかってきました。結局、自分の入社より先に先輩のところへ届けることになったんです。
入社してみると、その道具は当たり前のように使われていました。誰かにお礼を言われることも、自分が用意したと気づかれることもなかったかもしれません。「相手が使いたいものを、やる気や自己成長にすり替えて他人にやらせる」——今思えば、あの構造はずっと変わらなかったのだと思います。気づいていたけど、断りにくい状況にうまく置かれていました。今思うと、本当に嫌な経験でした。
▍入職直後の二重拘束
新人1年目、最初に言われたのは「1日100個質問しろ」という指示でした。緊張しっぱなしの状況で、知識も十分ではない中、絞り出して質問すると「それだけ?」「そんなことも知らないの?学生やり直したら?」「それは自分で調べて」と返ってきます。どう動いても正解にならなかったんです。
さらに「この本を時間があるときに書き写しておくように」と渡されましたが、日々の業務だけで時間いっぱいになり、就業時には疲労で動けない。「時間があるとき」など存在しなかったのです。
▍睡眠と生活の崩壊
私はHSP傾向があって、刺激で疲弊しやすいんです。帰宅するとそのまま夜12時まで眠ってしまい、そこから朝3時まで毎日レポートをこなして、また睡眠不足で職場に向かいます。集中力が落ちた状態でも気を抜けない、質問を求められ続ける。やりたいという前向きな気持ちはこれっぽちも残りませんでした。ただ「なんとかこれぐらいやっておけばいい」と終わらせる毎日でした。
▍家庭への影響
1年目に結婚し、すぐに子どもも生まれました。余裕なんてなかったです。キコとよく喧嘩しました。離婚しなかったのはキコのおかげで、本当に頭が上がりません。
▍業務中の罠
終業時には「今日の業務の振り返りは?」と聞かれます。前向きな意見がなければ「ダメじゃないか」と言われ、他の先輩に向かって「どうやったらこの人にやる気が出るんですかね」と嫌味を言っていました。これは私を貶めるためだけでなく、先輩が先輩方に取り入るための算段としても使われていたのだと思います。
患者の回復が思わしくないときは「ちゃんと評価しているのか?今すぐ考えを言え」とその場で詰められました。プログラムを組むときは考えて立てていますが、急に人前で理論を言語化することはまた別の話で、その場では答えられません。それもまた責める材料にされました。
▍患者関係への介入
休みを取るとシフトで代わりに診てもらわなければなりません。するとその先輩は担当患者に「あの人にやってもらっているんですか、大丈夫ですか」と不安を煽っていました。実際に患者から「私はあなたじゃなくてあの人に診てもらいたい」と面と向かって言われたこともあります。今考えると、ほぼいじめだったと思います。休み明けには「ちゃんとしなさい」と言われ、休んでも休んだ気がしませんでした。
▍後輩指導の二重拘束
後輩ができたとき、先輩が私にしてきたように「自分で学べ」という姿勢で関わっていたら、「ちゃんと指導していない」と怒られました。先輩と同じことをしても怒られ、違うことをしても怒られました。後輩は怒られない。私がされてきたことをすれば怒られ、私ができていないことは私のせいにされる。この構造が本当に長く続きました。
後輩の実技練習に付き合い、正直にフィードバックしたら、ミーティングで「練習に付き合ってもらったけど、まだここが下手って言われた」と表現されました。すると先輩が「あいつに言われたらおしまいだ」と言い放ったんです。誠実に関わっても、こうなるんです。どう振る舞っても結果は同じでした。
▍金銭的搾取と私的利用
毎月3万円の勉強会にも行かされました。「先輩の名義でないと参加できない研修がある、勉強になるから行ってこい」と言われましたが、実際は先輩が行きたかっただけだったのでしょう。奨学金が残り、結婚したばかりでお金がありませんでした。キコも反対していたのに、私はその先輩に逆らえなかったんです。朝突然「迎えに来てくれ」「引っ越しを手伝ってくれ」と電話がかかってくることもありました。何かと駆り出されるのに、特別な恩恵は一切ありませんでした。
起業に反対していたくせに、自分が気づいたかのように後から起業するということも何度もありました。今思うと、人としてかっこいいと思ったことは一度もなかったです。
▍18年後の気づき——精神科の患者さんの言葉がきっかけだった
「トラウマになっている人から連絡があると動悸がします」——患者さんの言葉を傾聴しながら、ふと自分に当てはめてみました。その先輩から電話がかかってくると、私も動悸がする。それまでずっと「口うるさい人だ、関わりたくない」程度にしか意識していなかったんです。それほど気づきにくい状態だったのだと思います。
渦中にいると、洗脳状態のように「これが学ぶということだ」と解釈してしまうのです。自分の居場所を作るために必死な新人の弱みに漬け込んだやり方だと、今ならわかります。今なら絶対に関わらないと思います。
読んでいるあなたへ:あの経験がなければ、もっと早く挑戦できていたかもしれません。自分の可能性に蓋をされていたのだと思います。今その状況にいるなら、「自分が悪い」ではなく「この環境がおかしい」と疑うことから始めてほしいと思います。自分の可能性に、どうか気づいてほしいのです。
ダブルバインド(二重拘束)とは
ダブルバインドとは、どの選択肢を選んでも否定・叱責される状況に置かれ続ける状態のことです。心理学者グレゴリー・ベイトソンが提唱した概念で、もともとは家族関係の文脈で研究されましたが、職場でも同様のパターンが多く見られます。
わかりやすい例を挙げると:
📋 職場でよくあるダブルバインドの例
- 「なぜ質問しないんだ」と言われるので質問すると「そんなことも知らないのか」と言われる
- 報告すれば「なぜもっと早く言わなかった」、黙っていれば「勝手に判断するな」
- 積極的に動けば「出しゃばるな」、控えていれば「やる気がない」
共通しているのは、「何をしても正解がない」という構造です。
ダブルバインドはパワハラなのか
「これはパワハラと呼んでいいのだろうか」——そう迷う方は多いと思います。結論から言うと、職場で繰り返されるダブルバインドは、パワーハラスメントに該当しうる行為です。
厚生労働省はパワハラを「優越的な関係を背景に」「業務上必要かつ相当な範囲を超えた」言動と定義しています。先輩・上司という立場を背景に、達成不可能な要求を課し、どう動いても叱責する——これは「精神的な攻撃」や「過大な要求」という類型に当てはまります。
💡 ここが大事
ダブルバインドが見抜きにくいのは、一つひとつの言葉が「指導」の形をしているからです。暴言のようなわかりやすい攻撃ではなく、「矛盾した要求の積み重ね」でじわじわ追い詰める。だから当事者も「これはパワハラだ」と認識できないまま長期化します。
なぜ「自分の能力不足」だと思い込むのか
ダブルバインド環境が厄介なのは、置かれた側が「環境の問題」ではなく「自分の問題」として受け取りやすい点にあります。
「もっとうまくやれば叱られないはずだ」「自分が足りないから正解を見つけられないんだ」——真面目で責任感が強い人ほど、こう考えてしまいます。これは弱さではないんです。不可能な要求を「可能なはずだ」と前提にして受け取ってしまう、誠実さの裏返しだと思います。
💡 OT視点のポイント
18年間のリハビリ臨床で、「不可能な課題を設定された患者さん」を多く見てきました。達成できないのは能力のせいではなく、課題の設定自体がおかしいのです。職場でも同じことが起きていると思います。
長期暴露で起きること——認知の歪みと身体症状
📋 認知面の変化
- 「自分が悪い」という思考が自動化する
- 新しい環境でも「どうせ自分はダメだ」と先読みするようになる
- ストレスを受けていること自体に気づけなくなる
- やりたいという前向きな気持ちが消え、「なんとかやり過ごす」だけになる
⚠️ 身体面の変化
- 食欲不振・体重減少
- 動悸・胃痛などの自律神経症状
- 休日も休めない、眠りが浅い
- その人からの電話・連絡で動悸が起きる
- 原因不明の体調不良が続く
医療現場に多い5つの矛盾指示
一般のビジネス書では出てこない、医療・介護現場ならではのダブルバインドがあります。私自身が18年で見聞きしてきた典型を5つに絞りました。
💡 医療職に刺さる5つの罠
- 質問の罠——「1日100個質問しろ」と言われて質問すると「そんなことも知らないのか」「学生やり直せ」と返ってくる
- 安全第一・残業ゼロの罠——「インシデントは絶対に出すな」と言われる一方で「定時で帰れ」とも言われる。安全を担保する時間が業務に組み込まれていない
- 指導スタイルの二重基準——先輩が自分にしてきた「見て覚えろ」を後輩にすると「ちゃんと指導していない」と怒られる。やり方を変えても怒られる
- 休暇中の侵食——「休んでいいよ」と言われて休むと、復帰時に「患者さんに迷惑をかけた」と言われる。担当患者に不安を煽られていることもある
- 誠実さの転用——後輩の実技練習に正直にフィードバックすると、ミーティングで悪用される。誠実に関わるほど攻撃材料になる
他にも「患者さんに丁寧に説明しろ」と言われつつ「次の患者が待っているから早くしろ」と急かされる、「自分の判断で動け」と言われつつ「勝手なことをするな」と詰められる——こうした業務の構造そのものに矛盾が組み込まれているのが医療現場の難しいところです。
これはダブルバインドかのチェックリスト
⚠️ チェックリスト(3つ以上なら要注意)
- どの行動をとっても否定・叱責されると感じる
- 「正解」が何なのかわからない状態が続いている
- 休日も「仕事のこと」が頭から離れない
- 「自分の能力が足りないから」と思い込んでいる
- やりたいという気持ちが消えて、こなすだけになっている
- 身体に原因不明の不調・動悸・胃痛が出ている
- その上司・先輩からの連絡で動悸や恐怖感が起きる
パワハラとして記録に残す3つの手順
「動こうにも、証拠が何もない」——多くの医療職が、ここで動けなくなります。ダブルバインドは一発の暴言ではなく「矛盾した指示の積み重ね」で起きるため、後から振り返ろうとしても具体的な場面が再現しにくいんです。
そこで、まだ動く気がなくてもいいので、「いつでも動ける状態」を作っておくための記録術を3つに絞ってまとめます。
📋 手順①:その場で「日時+発言+場面」をメモする
紙のメモ帳でも、スマホのメモアプリでも構いません。「2026年5月28日 9:15 ナースステーション 〇〇先輩より『なぜ質問しないんだ』と言われた。その2時間後、別件で質問したら『そんなことも知らないのか』と返答」のように、事実だけを書くのがコツです。
感情(「ひどい」「もう無理」)は別欄に書く。混ぜると、後で読み返したときに「言い過ぎだったかな」と自己検閲してしまうからです。
📋 手順②:可能なら音声で残す(自分のためでもいい)
日本では、自分が会話の当事者であれば無断録音は基本的に違法ではありません(最高裁判例でも、自己防衛目的の録音は証拠能力が認められた例があります)。スマホのボイスレコーダーをポケットに入れておくだけで構いません。
使う前提でなくても、「残してある」という事実が自分のメンタルを支えます。「自分が悪い」と思い込みかけたとき、聴き直して『これは指導の範囲を超えていた』と冷静に確認できる——これが認知の歪みを止める一番のブレーキになります。
📋 手順③:心身の不調と医療機関の受診歴も並べて記録する
体重・睡眠時間・動悸の頻度・受診日・診断書の有無——「いつから・どんな症状が・どの頻度で出ているか」を時系列で並べておきます。「あの先輩からの電話で動悸」のような因果が分かる出来事もメモに残す。
これがあると、産業医面談・労働組合・労働基準監督署・弁護士、どこに持ち込んでも話が早く進みます。何より、休職や転職を判断するときに「自分の体感だけで動いていいのか」という迷いが消えます。
💡 「告発する」と決めなくていい
記録は「告発の準備」ではなく、まず「自分の認識を歪ませないため」のものです。渦中にいる人ほど「自分が悪い」に引き寄せられます。客観的な記録が、その引力に対する錨になります。
「辞めるべきか」を判断する3つの基準
「辞めたい気持ちはある。でも、これで辞めて本当にいいのか」——一番迷うところだと思います。私自身、7年動けませんでした。だからこそ、感情ではなく基準で判断することの大切さを伝えたいです。
⚠️ 基準①:身体に不可逆な変化が出ているか
6ヶ月以内に体重が5%以上落ちている/月経不順/半年以上続く不眠/動悸・胃腸症状のいずれかが出ていたら、「もう退場ラインを越えている」と私は判断します。「もう少し頑張れる」は、すでに身体が叫んでいる状態に対しては危険な判断です。
⚠️ 基準②:相手が変わる現実的な見込みがあるか
「相手の異動・退職・配置転換が1年以内に確実にあるか?」を冷静に問います。「いずれ変わるだろう」では具体的な期日にならない。期日が立たないなら、変わるのを待つのではなく、自分が動く方が早いです。
⚠️ 基準③:「離れた自分」を具体的に想像できるか
「この職場を離れた自分」が想像できないなら、まずは転職活動だけ始めて情報を集めるのが良いです。動かないと、選択肢が無い気がしてしまうだけのことが多い。情報が入ると「ここを離れても食べていける」が見えてきます。
💡 「辞める=逃げ」ではない
作業療法の臨床で、回復しない環境に居続けた患者さんが回復した例を、私は知りません。環境を変えることは、治療の一部です。逃げではなく、回復に必要な医学的判断だと私は思っています。
まとめ
- ダブルバインドとは「どの選択肢を選んでも否定される」構造のこと
- 医療現場には「安全第一×残業ゼロ」「丁寧説明×時間厳守」など構造的な矛盾指示が組み込まれている
- 真面目・HSP傾向がある人ほど「自分の能力不足」と誤解しやすい
- 長期暴露は認知の歪みと身体症状(動悸・胃痛など)を引き起こす
- 記録(日時+発言+身体症状)が、認知の歪みを止める一番のブレーキ
- 体重・月経・不眠・動悸のいずれかが出たら、もう退場ラインを越えている
- 環境を変えることは逃げではなく、回復のための正しい選択
【免責事項】本記事は筆者の臨床経験と当事者視点に基づく一般的な情報提供であり、特定の診断・治療・雇用関係の法的助言を行うものではありません。心身の不調が続く場合は医療機関、職場の問題は労働相談窓口など専門機関にご相談ください。
📚 参考・引用文献
- 厚生労働省「パワーハラスメントの定義・類型」(https://www.no-harassment.mhlw.go.jp/foundation/pawahara-definition)
- 厚生労働省「職場のハラスメントに関する実態調査報告書」(https://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/newpage_18998.html)
- Bateson, G. (1972). “Steps to an Ecology of Mind.” Chandler Publishing. (ダブルバインド理論の原典)
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辞めたい人だけが、備えるわけじゃありません。
いまの職場をできるだけ長く続けたい人ほど、「いつ何が起きてもいい次の手」を、そっと準備しておくこと——。
それが、いちばん心が楽になる道だと、私は思っています。
この記事が、あなたの「いつか」のとなりに、ほんの小さな「次の手」を置くきっかけになれたら嬉しいです🐢

